NAO'S WAY

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18歳の祖母が語る


<これは去年の8月、祖母の誕生日の祝いの席で話してくれた話です。その祖母は今年の6月に他界しました。9月15日敬老の日は過ぎてしまいましたが、祖母への感謝の気持ちと、今も逞しく笑顔で色々語ってくれる祖父の長寿への祝福と願いを込めて。>

 「年を取るとね、生きていくのも一苦労なのよ」

そんな言いだしで、81回目の誕生日を迎えた祖母は嬉々と話し始めた。祖母の友人の話だそうだ。
とある日、彼女は昼から出掛ける予定があった。化粧も丁寧に行い、着替えを済ませ、最後に靴下を履こうとしたその瞬間。体のバランスを崩してしまい、横転。結果、全身打撲。しばらく身動きが取れなかったそうだ。いつもならばどこかに腰を掛けて靴下を履いていたのに、その日は立ったまま靴下を履こうとした。ちなみにその日の予定は、彼とのデートだったそうだ。それ以来、体を少し動かしただけで痛みが走り、思うように動けなくなってしまった。彼女は老人ホームへ入ることになった。
老人ホームは実に退屈であった。ボケたわけでもなく、体が今までより少し不自由になった程度なので自宅でも生活できることはできた。けれど娘家族が、独り暮らしの母親に何かあったら大変だからと心配してくれて、それには何も言い返すことができず、老人ホームに入ることになったのだ。友人と外に出かけたり、本屋に行ったり、デパートで買い物をしたり。そんな生活の楽しみを奪われてしまい、時間を持て余した。
だが、そんな生活でも今までと変わらず楽しめるものが一つだけあった。昼過ぎから夕方頃にやっている刑事ドラマの再放送だ。元々刑事ドラマが好きで、事件が起き、犯人が逃走し刑事が追いかけ、倉庫かどこかで犯人を追いつめ拳銃を向け、真実を吐かせる……こんな刑事ドラマの定石とも言える展開のドラマが大好きだった。
そして、ある夜のことだった。深い眠りの中で見たものは、夕方の刑事ドラマの再放送をまたもや夢で再々放送しているかのような夢だった。ただ一つテレビで見たものと異なるのは、犯人役が自分であるということだった。彼女は刑事に追いかけられ逃げて……。―気が付くと、彼女はベッドと壁の隙間にはまって動けなくなっていた。夢でなく、現実だった。完全にはまりこんでしまっていたので、もぞもぞと少しずつ体を動かし、30分以上掛けて抜け出した。
汗だくになったので、トイレに行き顔を洗い落ち着いたところで、再びまた眠りについた。先ほどの夢の続きだった。ついに刑事に追い込まれ、拳銃を向けられた。そして発砲されると思った瞬間、彼女は軽やかに身をかわし……。気が付くと、彼女はベッドの下にいた。全身に激痛が走っていた。ベッドから落ちたのだった。彼女はそれ以来、刑事ドラマを見なくなった。
刑事ドラマを見なくなった今、老人ホームでの生活に楽しみが一つもなく退屈である、という旨の手紙が祖母のもとへ届いた。祖母はその手紙に返事を書き、その後何度か手紙のやり取りをした。彼女も友人との文通が、楽しみに変わっていったようだった。
そしてある日、祖母の返事が届き、老人ホームのスタッフが「手紙が届いていますよ」と彼女の部屋の入り口で声を掛けた。それを受け取ろうと、ベッドの脇にあった机に手をついて立ちあがろうとした瞬間、パキッ! 机についたその右手の手首がいとも簡単に折れてしまったのである。彼女は、ついに手紙を書くこともできなくなった。
老人ホームの友人からぱたりと手紙が来なくなったことが心配になった祖母は、その老人ホームに会いに行き、靴下で全身打撲から手紙で骨折までの一部始終、事の顛末を聞いたそうだ。
 
 「だから、私がこうやって生きていられているのも奇跡なのよ」
 
 祖母は大事そうに持っていたシャンパングラスに口を付け、締めくくった。
十の位と一の位を入れ替えた年齢のつもりで余生を送る!と目標を語った祖母。
確かに、「この年になってやっとシャンパンが飲めるようになった」と嬉しそうに話す祖母は、大人の仲間入りをしたばかりのような、18歳の少女に見えた。



BLOG LIST

COMMENT

  • おばあちゃんの心はずっと18歳だったと思います。ずっと若いまま元気で、ずっとずっと生きて行く、生きて行ける、
    だけど人生にはかならず終幕がある。この世とお別れしなきゃいけなくなる。家族に囲まれ穏やかに旅立てる人もいれば、孤独なままひっそり旅立ってしまう人もいる。

    奈央さんのおばあちゃんはおそらく前者なんだろうけど、おばあちゃんのお友達は、、なんだかせつないですね。

    直樹さん

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  • 18歳の少女に見えた奈央ちゃんのおばあちゃん、素敵ですね!祖父母を思う奈央ちゃんも、素敵です!そして、おばあちゃんがこんな風に奈央ちゃんに話してくれたというのが、なんとも羨ましく思います。奈央ちゃんのおばあちゃんへの思いが伝わってきて感動しました。奈央ちゃんの活躍は、嬉しかったでしょうね~。たくさんのおばあちゃんとの思い出、おばあちゃんに教えてもらったことは、奈央ちゃんの宝物ですね。かわいい奈央ちゃんを、いつもおばあちゃんは見守ってくれていると思いますよ。とても心にしみるお話、ありがとうございます。

    ヤマグチリュウヤさん

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  • いくつになっても奈央さんのお祖母さんのように、気持ちだけは、若々しく前向きに生きたいものですね。生きていることにいつでも感謝し、新しいことに何にでも挑戦していらっしゃったお祖母さんの姿勢は、私も見習いたいと思います。しかし、怪我をされたお祖母さんのご友人は、大変だったのですね。ご愁傷様です。

    人間力アップ気持ち次第で青天井さん

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  • THE REASON WHY やゴチャ・まぜっ!などで元気な81歳のおばあちゃんの話を聞いていたので、悲しいです。
    私の祖母は95歳を超えてまだ健在ですが、社会人になり、自分が年齢を重ねていくにつれ、祖母との別れの時も1日1日近づいていっていることを改めて思いました。
    心の中に祖母を留めていられるように、会いに行こうと思います。
    心からご冥福をお祈り申し上げます。

    さん

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  • 仕事で毎日、施設に行きお年寄りの治療をしています。
    肢体不自由や認知症の方など様々です。
    同情は上から目線の差別になるので、なるべくその方の人生に接するよう心掛けてます。
    症状のちょっとした改善を見つけ、お互いに喜びを分かち合える関係性が理想的ですねf(^_^;

    あなたは、良い意味で染まっていませんね(*^^*)

    いつまでも、今のままのあなたでいてください(⌒∇⌒)ノ""

    しんさんさん

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  • いやあ本当に色々考えされるお話でした。
    それにしても毎回言いますが、とても話がお上手です。本当お世辞でも何でもなく、ファンであることを差し引いてもめっちゃお上手です。すぐに引き込まれてしまい、展開等も素晴らしいです。ぜひ小説等お書きになったらいかがですか❓絶対に面白いと思います。
    長くなってしまいましたが、こういうことが言えるおじいちゃんになりたいと思います。

    藤野 貴志さん

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  • 世界では絶え間なく戦争が続き、日本でも幼い子が命の危険にさらされている。
    生を受けて何十年と生きる、って本当に奇跡だし、周囲の方々に感謝しなければならないですね。

    五鉄さん

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  • 感動しました。
    精一杯生きようと思います。

    ken-5さん

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  • おばあさんの話は身につまされました。
    私はどちらから読んでも55才ですが、
    三十路を越える頃から「老い」を感じて来ました。
    最近は足を骨折して走れなくなってます。
    様々な事を諦めることに慣れていく毎に、
    「疲労感」のようなものが、
    少しずつ積もっていくのを感じています。
    いつか「死」の恐怖も上回るのかもしれません。
    81歳の老女が18歳のつもりになれたのなら、
    私には奇跡に思われます。
    でも宇宙の歴史からみれば皆一瞬の人生なんですよね。
    その外側を考えた科学者が神経衰弱になったそうです。
    私が此の頃、
    人生の意味を探してしまうのと同じ事かもしれません。
    できれば夢中で生きたい、と思います。
    自分らしさとは何だろうと考えた時、
    答えは出せなかったのですが、
    無我夢中に没頭している時に表れていた気がしました。

    白熊さん

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  • 奈央ちゃんのおばあさんは最後まで生きていることを奇跡と思い、喜び、楽しく生きようとされたのですね。
    テレビ番組のダー○の旅とかで出てくる、愉快なおばあさんのイメージがわきました(笑
    きっとおばあさんも奈央ちゃんの思いに気づかれて、幸せだったのだろうなと思います。
    奈央ちゃんもそんなおばあさんに出会えてよかったですね。僕も祖父母が元気なうちに祖父母孝行しないといけないですね。

    ひろすけさん

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  • こんにちは。
     奈央さんのおばあさまは、前向きで心若き素敵な方だったと思います。お歳を十の位と一の位を入れ替えた気持ちで日々を過ごすという目標は、素晴らしい考え方と思いました。
     精神力が身体に与える影響は、計り知れないものがあります。“生きよう”、“病気を治そう”や“元気になろう”ということは、そういう強い気持ちがあってのことと私は思います。
     ただ、歳をとる(老いる)ということは、少々大袈裟にいうと、昨日出来た事が今日は出来なくなっているという現実に直面することだと思います。このことは、時期というか時間の差はあれど、ほとんどの人が通る“道”です。それを遅らせるのは、普段の肉体的精神的な努力ではないかと思っています。
     すみません、また偉そうなことを書いてしまいました。一期一会の精神で、自分の心を大切にお身体に気をつけて頑張ってください。微力ですが、応援しています。

    讃州育ちのテツオさん

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  • 素敵なお話ですね。人間はビッグバンで生まれた星屑から偶然が重なってできた。宇宙誕生から137億円、そして地球誕生から45億円。人間のなんと儚い命の期間。人間として徳のある生き方を。南沢さんが素敵なFamlyを早く作りますように、祈念!

    浜尾光吉さん

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  • うむ。老いた母を持つ身として他人ごとではありません。
    老人の終わりは、転んでから〜
    若いと直ぐに立ち上がるけど、、
    でも、若いのに立ち直れない、そんな人も。
    気力体力、心身共に健やかであれ!ですな。
    シャンパンファイト!

    goonie426さん

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  • なんか寂しい話ですね。
    娘さんがいるなら、一緒に暮らせばいいのにね。そういかない所が今の世の中なのかな?

    先日、仕事で老人ホームいったんですが、そこの方は楽しそうでしたよ。
    色んなレクリエーションもあるし、サークルもある。
    すれ違えば、みんな挨拶してくるんですよ。
    みんな友達みたいでした。

    良くない老人ホームに入ったか、自分の意思に反しているので、友達出来なかったのかな?

    老人になっても楽しく生きられる、そんな世の中を作っていかなければいけないですね。

    M2さん

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  •  人が死を迎える確率って、100%なんだよな。人生は、自分が自分になっていく作業。自分が自分になる、だけど変化もともなう。それが成長、老いなのかも。素敵な死を迎えたいですね。

    しおあまさん

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  • 深い話ですね。
    僕は老人ホームでの介護の仕事をしていたので少し分かる気がします。
    快適な反面、楽しみが無くなり老いを加速させる生活環境になっている。
    安全を考えると仕方ないと言えば、そうなのですが何か釈然としない…。
    そんなジレンマがありました。
    おばあちゃん達には気持ちだけでも18歳のままで元気でいて欲しいと思います。

    野村勝義さん

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  • 奈央ちゃんのお祖母さんは生きていることが奇跡と思っていたのですね。
    人間生まれて来た事じたい奇跡なのかもしれません。
    奈央ちゃん素晴らしい話ありがとう。
    改めて奈央ちゃんのお祖母さんのご冥福をお祈り申し上げます。

    太陽さん

    []

  • 奈央ちゃんのおばあ様と言うと以前Facebookに投稿された自宅の壁に飾っている花の刺繍を思い浮かべます。その他ラジオなどでおばあ様とのエピソードが・・・第二の青春をエンジョイしようとした矢先、そして奈央ちゃんの花嫁姿、ひ孫の姿を見たかったのでしょうね、これからも仲のいいご家族、そして奈央ちゃんの事をいつも近くで見守ってくれていると思いますよ、おばあ様の言葉を胸にがんばって下さい。奈央ちゃん!

    ひぃーさん

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  • 家のバーさんなんて2度も骨折してしかもこの間は肺炎で死にかけたのにまだ元気。寿命ですね。今年94です。でも養老院は特養の順番が要介護4ですが、50番目なので、たぶんあと4.5年かかるでしょう。寝たきりで家族での世話が限界にならないようにと今から神様にお祈りしています。

    ももなおさん

    []

  • 奈央さんこんばんは
    いつも奈央さんの身近なお話しありがとうございます。おばあ様の若い気持ちを持ち続けることは、色々なことでプラスにつながって来ていたのかも知れませね!
    奈央さんの前向きな生き方も、おばあ様から受け継がれているのでしょう。
    これからも沢山の方とのふれ合いを大切に頑張ってくださいね!
    いつも応援しています(^_^)

    ぺぺんさん

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  • 様々な感情が込み上げて、いろいろなことを考えずにはいられない話です…

    お悔やみ申し上げます。

    げじひとさん

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  • 長寿ですね。きっとお婆さまは奈央ちゃんに「生きていることの奇跡」を自分なりのおしゃれなアレンジで伝えたかったのでしょうね。なるほど、なぜ奈央ちゃんが個性的なのかに合点が行く文章でした。81歳じゃなくて18歳、自分はいつまでも心は若いのよっていう所にかわいさのようなものを感じてしまいます。僕の祖母は僕が5歳の頃に亡くなりましたがいつも漬け物を近くの酒屋さんで買って家に持ってきてくれるそしてこたつの部屋で談話と言うのが楽しみの一つでした。だっておばあちゃんが来る=漬け物が(しかもあまいたくあん!!)食べられるからです!!子どもながらに現金ですよね。でも、今は数年前友人の祖母が亡くなったことを聞き、考えさせられる時があり「自分ももっと祖母と思い出を作りたかったな~。」と思い出を振り返りながら過ごしていました。うちの祖母は65歳。でも、きっとうちの祖母も最愛の人=祖父との楽しい時間を毎日過ごしていたんだろうなぁ。自分にもそんな時が来るのだろうかなどと干渉にふけることがたまにあります。僕にとってのそれ(最愛の人)は奈央ちゃんですが、ぜひそんな同じ時同じことを味わって生きられたらなんて今はそれを夢見て毎日をがんばっています!!本当に奈央ちゃんのご家族から教えられたり勘付かされる事が多くて勉強になります。貴重なお話、ありがとうございます!!

    狩野健一さん

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  • 人間万事塞翁が馬という言葉がございますがお婆さまはまさにそんな波乱万丈のご体験をされてそれでもいきていられるのは奇跡という「命の大切さ」を奈央ちゃんに伝えたかったのでしょうね。近年は本当に幼い頃以上に高齢の方々から学ぶことが多いです。そんな高齢の方々にも長生きをし、「人生を全うした」(少々オーバーでしょうか(^^;)?)くらいの人生を送ってほしい、そんな風に思います。天国の祖父母へ・・・。暖かい気持ちにさせてくださった奈央ちゃんにまた感謝!です!!ありがとうございます!!

    狩野健一さん

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  • 奈緒ちゃんこんにちは。
    現代の年配の方たちは我々には想像もできない体験をされてきたんですよね。戦争、荒廃、復興と。特に戦争の体験は忘れることができないようです。オイラの母方の祖父母は戦中、軍事基地のそばに住んでいたので色々な経験をして、それを孫たちに話してくれました。辛い話だけでなく楽しい話、感動する話など…。
    普通のドラマよりドラマチックな話が多いです。

    二児の父ケンケンさん

    []

  • 御祖母様のことが18歳の少女に見えたというエピソードに、前向きな考え方をされる御祖母様を尊敬されている奈央さんの想いが伝わってきます。年を取ってからも若者のような気立ての良さで、自身の可能性に喜びを感じていらっしゃるというのは素敵ですね。
    奈央さんも御祖母様の素敵なところをしっかり受け継いでいらっしゃると思います。御祖母様もご健在の御祖父様も、御祖母様のように前向きな気持ちを持ってますます素敵になってゆかれる奈央さんのことを嬉しく思っておられることでしょうね。

    MIYAMOTO Kenさん

    []

  • 百箇日も過ぎた頃かと存じますが、まず素敵な御祖母様に合掌。
    そして奈央さんの筆力に感服。見事な一文でした。
    改めて合掌。

    順智さん

    []

  • 今、マグロ養殖の再放送見てますが、この一文といい、ご自身のちょっとした表情・視線といい、薫風というか、ちょっと比類ない清澄感・清涼感。これは天性のものですねえ。
    18日は選に当たったようなので、収録に参上します。
    (ちなみに18日は観音様の御縁日)

    順智房さん

    []

  • 大事にし過ぎて壊してしまうこと、前向きにチャレンジして緊張感を維持することの差でしょうかね^ ^どこにでも危険はあって、必ずしも避けるだけが答えでは無いのでしょうか〜

    泳ぐたいやきさん

    []

  • 生命の寿命は長いものです。生まれる前にも、命が終わった後も、そして今も生命は続いていると思います。人間の生命は長い、長い歴史の中のほんの一部にしか過ぎないと思います。多分終わりは無いでしょう。何度でもやり直しが出来るのです。人間としての生命が終わった後にも、きっと楽しい別の世界があるはずです。

    望むように生きて、輝く未来を手にいれましよう!

    taisukeさん

    []

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